不思議なことに50年も昔の幼稚園の頃の記憶が鮮やかです。当時ですら古色蒼然といった印象のスクラッチタイル張りの園舎。広い園庭の山の上の大きな銀杏の木や先生の目の届かない秘密めかした裏庭。当時の私には無限の広さに感じられた園舎は、しっかりとした手触りがありところどころに上品できれいな飾りもありました。自分の家以上の風格と安心感が感じられ、子供心に誇らしく感じていました。
保育園の設計をいくつか手がけてきましたが、初めての仕事の最初の打合せで、園長先生から保育園は学校ではなくて家ですよと教わりました。参考事例を調べていて、その多くがこどもの関心を引くように考えられたさまざまな意匠満載でどうしたものかと思っていたので、先生の一言ですとんと気持ちが軽くなるような思いでした。
家はピンクや青に塗らないでしょう?こどもだましの絵を掛けないで、本物の絵を掛けましょう。体が小さなこどもがストレスを感じない寸法の調整や、こどもを見守る大人の便利には細心の注意をはらう必要がありますが、大人にとって素敵な環境はこどもにとっても素敵な環境なのです。
こどもの感性はあなどれない、こどもは未来の大人、そのこども達が大きくなって画家や音楽家、建築家になるかもしれないのです。
(2010年11月)