人がいて、生活があって はじめて家は呼吸をはじめる

■住まいをつくることは生活の背景をつくること

家をつくるとき、私はそこに住まう人やそこに関わる人たちの生活を重ねてイメージしてみます。それは、絵が描かれたキャンパスにとても似ています。家をつくることは、生活の背景をつくることであり、そこに生活するひとがはじめて「家」として機能します。さらに生活するなかで暮らしやすく進化し、その家だけの形が創造されていくのです。私たち建築家は、完成の先にあるさまざまな生活シーンをイメージし、「住まう人と家そのものが共存できる空間づくり」という観点を大切にしたいと考えています。

■環境に優しく長寿命であることが省エネルギー住宅の条件

私たちの文化や暮らし、また進化のプロセスは、地球という自然なくしては考えられず、自然という枠を逸脱して私たちは存在できません。未来を見据え、地球規模で省エネルギーを考えた場合、環境と共生していかなければ、本質的な対策は不可能であると私は思います。省エネルギーは、数値目標の達成といった単一のベクトルで判断することが難しい課題です。過去から重ねてきた文化や多様化した生活スタイルを共存させるシステムこそ重要ではないでしょうか。私は省エネルギーを考える上で重視しているのは、「環境に優しい」モノが「省エネルギー」によって成立し、「長寿命」で存在し続けること。「環境に優しい」とは、自然素材を多く用いることを意味しますが、これらも「長寿命」でなければならないと思います。それは物理的な耐久性も意味しますが、もう一方でモノの存在価値を持続させることで、サスティナブル社会形成の命題も考慮しなければ意味がありません。どんなにすばらしいモノを生産しても、それが生活体系の変化についてこられないのであれば、廃棄せざるを得ない。そんな結果を招かないことが肝心なのです。

■在来工法を巧みに活かし 先進技術と融合した住宅建築

近年の建築技術の進化はめまぐるしいものがあります。ハイテクノロジーがクローズアップされるなか、常にローテクノロジーの側面を併せ持っているのも事実です。高水準の技術も過去から蓄積されたベーシックな技術の上に成り立っており、決して切り離して考えることはできません。木という自然素材へのこだわり、受け継がれてきた在来工法と時代をリードする先進技術の融合。「彩都」における「環境共生実証住宅」もまた淘汰された結果ではなく、継承された技術を未来の住宅開発につないでいく取り組みです

「省エネ」と快適性をめざし 建築家が設計した住まいとは

■自由で開放感のある「木造軸組工法」「全館空調」

「環境共生実証住宅」では、柱でしっかり家を支える木造軸組工法を採用しました。これなら間仕切りが少なく、開放的な住空間が実現。しかも、たった1台の空調機で全室の空調ができ、1部屋ごとにエアコンを設置する必要もありません。室内の凸凹が少なくすっきりしているので、インテリアも思いのままです。

■空気のバリアフリーで自然風が家中に

今回はダクト空調を導入しましたが、これにより自然の風を住まいへ取り込み、家中の温度・湿度・空気・気流のコントロールができるように。また間仕切りを少なくし、家の中心になるスペースを吹き抜けにすることにより、心地よい風が自然の力で流れます。

■パッシブ設計思想が育む家族のふれあい

自然を取り込み、室内を快適に保とうとするパッシブ設計という考え方があります。私は、家族がお互いの温もりや気配を感じられる住まいづくりを設計思想にしていますが、これもパッシブ設計によって実現できるのです。風通しがよく間仕切りの少ない空間は、家族とのふれあいを育みます。ダクト空調に必要な構造が、快適な生活スタイルと調和した証ではないでしょうか。

阪急彩都あさぎ 環境共生実証住宅2邸 E99街区 2006年8月